2024年11月30日土曜日

バージニア・ウルフ

 バージニア・ウルフ(Virginia Woolf, 1882年1月25日 - 1941年3月28日)は、イギリスの小説家、随筆家、批評家であり、20世紀モダニズム文学の重要な作家の一人です。彼女は意識の流れの技法や詩的な散文を駆使し、文学に革新をもたらしました。また、フェミニズム運動にも影響を与えた思想家としても知られています。


生涯

出生: 1882年、ロンドンの裕福な家庭に生まれました。

父は作家・批評家のレスリー・スティーヴン、母は芸術界で名高い家系の出身。

幼少期: 両親の死や精神的な苦難に見舞われる。これが後の創作と精神疾患に影響を与えたとされています。

結婚: 1912年、レナード・ウルフと結婚。彼とともに「ホガース・プレス」を設立し、多くのモダニズム文学を出版。

サークル活動: 「ブルームズベリー・グループ」の中心人物として活躍。このグループは、芸術、文学、哲学の革新を追求する知識人の集まりでした。

死: 1941年、うつ病の悪化により、サセックス州の川に身を投じ自殺しました。

文学的特徴と意義

意識の流れの技法


登場人物の内面的な思考や感情を直接描写する手法。

客観的なプロットよりも、主観的な経験や時間の流れを重視。

テーマ


個人のアイデンティティ、ジェンダー、社会的役割の複雑さを探求。

女性の社会的地位や創作活動への制約についての洞察。

文体


詩的でリズミカルな文体を用い、意識の細やかな変化を捉える。

主な作品

『ダロウェイ夫人(Mrs. Dalloway)』(1925年)


ロンドンの上流階級の女性クラリッサ・ダロウェイの一日を描く。

社会的規範と個人の内面の衝突がテーマ。

時間の流れと意識の交錯が鮮やかに描かれる。


ダロウェイ夫人

『灯台へ(To the Lighthouse)』(1927年)


家族の旅行を通じて、時間と記憶、芸術の意味を探る。

主観的な視点を多用し、家族や個々の存在のあり方を浮き彫りにする。


灯台へ(新潮文庫)

『オーランドー(Orlando)』(1928年)


16世紀の貴族オーランドーが性別を変えながら400年を生きる物語。

性とアイデンティティに関する議論が盛り込まれた、フェミニズム文学の先駆的作品。

『自分ひとりの部屋(A Room of One's Own)』(1929年)


女性と文学をテーマにしたエッセイ。

「女性が作家になるには、自分の部屋と収入が必要だ」という象徴的な主張で知られる。

フェミニズムの重要なテキスト。

『波(The Waves)』(1931年)


詩的な言語で6人の登場人物の内面を描く実験的な作品。

時間と存在の哲学的な探求。

フェミニズムへの貢献

**『自分ひとりの部屋』**は、文学における女性の抑圧と可能性についての鋭い洞察を提示し、フェミニズム運動において重要なテキストとなっています。

女性の創作活動を妨げる社会的構造や歴史的背景を批判し、ジェンダー平等を訴えました。

影響と遺産

ウルフの革新的な文体とテーマは、20世紀文学の発展に大きく寄与しました。

現代フェミニズム文学やジェンダー研究においても重要な人物として位置付けられています。

その作品は、個人の内面的な葛藤と社会的規範との関係を問い続ける普遍的な価値を持ち、現在でも広く読まれ研究されています。

バージニア・ウルフは、文学と思想の両面で永続的な影響を与えた20世紀の巨星といえるでしょう。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(James Tiptree Jr., 1915年8月24日 - 1987年5月19日)は、アメリカの著名なSF作家です。彼の名前は長らく男性作家と考えられていましたが、1977年にその正体がアリス・B・シェルドン(Alice Bradley Sheldon)という女性であることが明らかになり、SF界に衝撃を与えました。


背景と経歴

出生名: アリス・ブラッドリー・シェルドン

生年月日: 1915年8月24日

出身地: シカゴ、イリノイ州、アメリカ

アリスは冒険家で作家でもある両親に育てられ、幼少期から世界中を旅行しました。

第二次世界大戦中、彼女はアメリカ陸軍航空軍の情報部に従事し、後にCIAでも働きました。

晩年には心理学の博士号を取得するなど、学術的にも活躍しました。

SF作家としての活動

アリス・シェルドンは1960年代後半から「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア」というペンネームを使用して執筆を開始。

男性のペンネームを用いることで、当時の性別に対する偏見を回避し、作品が内容そのもので評価されることを意図しました。

ティプトリーの作品は、性別、性、アイデンティティ、人間性に関する深い洞察を描くことで知られています。

代表作

短編集


『愛はさだめ、さだめは死』(1973年)

ティプトリーの最高傑作の一つとされる短編集。表題作「愛はさだめ、さだめは死」は、人間と異種知性との間の理解の難しさを描いた感動的な物語。


愛はさだめ、さだめは死 (ハヤカワ文庫 SF テ 3-1)

『たったひとつの冴えたやりかた』(1985年)

青年向けの短編で、切なくも衝撃的な物語。


たったひとつの冴えたやりかた

短編


「接続された女」(The Girl Who Was Plugged In, 1973年)

仮想現実と広告産業をテーマにした作品。サイバーパンクの先駆けとされる。


接続された女

「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」(Houston, Houston, Do You Read?, 1976年)

性別と社会の役割をテーマにした異星的な物語。

テーマと特徴

性とジェンダー

ティプトリーの作品では、しばしばジェンダーや性別役割への疑問が提示され、伝統的な価値観に挑戦するテーマが見られます。

異星生命と人間性

異星人や未来社会を通じて、人間の特質や弱点、可能性を浮き彫りにします。

心理学的洞察

彼女の心理学の知識は、キャラクターの深い内面描写や感情的な葛藤に活かされています。

ペンネームの正体が明かされた経緯

1977年、ティプトリーが自分の母親の死について話す中で、自分の素性が偶然明らかになりました。

このニュースはSF界で大きな驚きを引き起こしましたが、作品の価値に対する評価は変わらず、多くのファンや作家が彼女を称賛し続けました。

晩年と死

アリス・B・シェルドンは晩年、夫と共にワシントンD.C.近郊で暮らしていました。

1987年、夫の健康悪化に直面し、アリスは夫を射殺した後、自ら命を絶ちました。この悲劇的な結末は、多くの人々に衝撃を与えました。

影響と遺産

ティプトリーの革新的な作品は、SF文学における性別の役割や可能性を広げる一助となりました。

その功績を称え、ジェンダーや性別をテーマにした優れたSF作品に贈られる「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞(現在はOtherwise賞と改名)」が設立されました。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアは、SF文学における重要な作家であり、現在も多くの読者や研究者に影響を与え続けています。

アイン・ランド 『肩をすくめるアトラス』

岡田斗司夫の動画で知った。思想的に面白いらしい。原書でも読みたい人が多いほど 表現にに富んでいる。

肩をすくめるアトラス 第三部 (AはAである)

アイン・ランド(Ayn Rand, 1905年2月2日 - 1982年3月6日)は、ロシア生まれのアメリカの小説家、哲学者、脚本家であり、20世紀の思想や文学に大きな影響を与えた人物です。彼女は個人主義や自由市場資本主義を擁護する哲学「客観主義(Objectivism)」を提唱しました。以下は彼女の主な特徴と業績です:

主な業績
小説

『肩をすくめるアトラス(Atlas Shrugged)』(1957年)
彼女の代表作であり、個人の創造性と自由市場の価値を描いた壮大な小説。
現代社会における規制や集団主義を批判している。
『水源(The Fountainhead)』(1943年)
独立した建築家ハワード・ロークを主人公に、個人の創造性と他者に従わない精神を描いている。
哲学

ランドは「客観主義」と呼ばれる哲学体系を提唱し、以下の4つの基本原則を掲げました:
現実主義(Metaphysics): 客観的現実が存在し、それは理性によって認識可能。
認識論(Epistemology): 理性が知識の唯一の源泉。
倫理(Ethics): 個人の幸福が道徳の究極の目的。
政治(Politics): 自由市場資本主義が唯一の道徳的な社会体制。
影響

彼女の思想は、アメリカの自由主義(リバタリアニズム)や保守的な経済思想に影響を与えました。
ランドの作品と哲学は支持者と批判者の両方から強い反応を受けています。
背景と人生
ロシア帝国のサンクトペテルブルク(現在のサンクトペテルブルク)で生まれました。彼女は十月革命後の社会主義的な体制に失望し、1926年にアメリカに移住しました。
ハリウッドで脚本家として働きながら、小説家としてのキャリアを築きました。
批判と論争
彼女の極端な個人主義と資本主義の擁護は、社会的な連帯や福祉を軽視しているとの批判を受けています。
一方で、彼女の思想は自由市場の擁護者や起業家精神を奨励する人々から支持されています。
アイン・ランドは賛否両論ある人物ですが、その影響力は現在も続いており、彼女の思想や著作は多くの人々に読まれています。

アイン・ランドの「客観主義(Objectivism)」は、個人主義と自由市場資本主義を基盤にした一連の哲学体系で、以下の主要な分野で構成されています。客観主義は、現実、知識、道徳、政治のそれぞれにおいて、独自の見解を提唱しています。

1. 形而上学(Metaphysics)
現実は客観的である

ランドの哲学は、現実主義を基盤としています。
世界は客観的であり、人間の意識や感情に依存せず独立して存在する。
「存在は存在する(A is A)」というアリストテレスの同一律を受け入れる。
キーワード: 客観的現実、絶対性、同一律

2. 認識論(Epistemology)
理性は知識の唯一の源泉である

知識を得るためには、感覚と理性に基づいた論理的思考が必要。
信念や感情、超自然的な存在に頼ることを否定。
客観的な現実を理解するためには、観察と論理を用いるべきだと主張。
キーワード: 理性、論理、感覚的知覚、科学的方法

3. 倫理学(Ethics)
自己利益の追求が最高の道徳である

人生の目的は、自分の幸福を追求すること。これをランドは「合理的自己利益(Rational Self-Interest)」と呼ぶ。
他者の犠牲になったり、他者を犠牲にしたりすることを否定(集産主義や利他主義を批判)。
美徳として「合理性」「生産性」「誇り」を挙げる。
キーワード: 合理的自己利益、利己主義、幸福、道徳的独立

4. 政治哲学(Politics)
自由市場資本主義が唯一の道徳的な社会制度である

個人の自由と財産権を最優先とする政治制度を支持。
政府の役割は、個人の権利(生命、自由、財産)を保護することに限定されるべき。
集産主義や社会主義、福祉国家を否定。
キーワード: 個人主義、自由市場、最小国家、財産権

5. 美学(Aesthetics)
芸術は人間の価値観を具現化したものである

芸術は人間の理想や価値を視覚化する手段。
ランドは「ロマン主義的リアリズム」を推奨し、崇高な人間精神を描写することを重視した。
キーワード: ロマン主義、崇高さ、理想化、創造性

客観主義の特徴
個人主義
個人が独立して生きるべきであり、他者の犠牲になってはならない。
自由市場資本主義の擁護
経済的自由が道徳的に正しい社会の基盤である。
反利他主義
他者のために自分を犠牲にすることは道徳的でない。
客観主義の影響と批判
支持: 個人の創造性を重視し、起業家精神や経済的自由を称賛する立場から、特に自由市場を支持する人々に影響を与えている。
批判: 極端な個人主義が社会的連帯や弱者保護を軽視しているとの批判もある。
ランドは「人間の存在理由は自らの幸福を追求することである」とし、人生を豊かにするために理性と自由の重要性を強調しました。この哲学は、一部の人にとって魅力的である一方、議論を巻き起こし続けています。






2024年1月2日火曜日

石田吉貞『隠者の文学』講談社学術文庫

 FIRE系の動画や書籍を読んでいる。また、年齢を上になるにつれ、自分と社会の距離感なども気になる。本書は、以前から読んで気にいったいた中野孝二『清貧の思想』と同様の思想の書籍である。

石田吉貞『隠者の文学』講談社学術文庫


隠者と隠者文学、隠遁、西行、長明、兼好、連歌と話しが進む。
隠者文学といっても、西行の関心は自然にあり、長明の関心は自分の閑寂で自由な生活にあり、兼好の関心は人間にあるという。
平安初期の隠者は、僧侶が多く、宗教への信仰のため隠遁生活にはいった。信仰一途の隠遁形式で、その生活はすさまじく、人間的な生活を遺棄したものになった。時代を経て、信仰とともに美的な要素が取り入れられ、美的隠遁ともいうべきものが生まれてきた。信仰と美の2本立ての隠遁形式である。
 美的隠遁の到達点として、閑寂な生活、さび系の美の把握、美的安心とする。
美的隠遁生活の到達的の1つは、閑寂である。
「閑寂とは、閑(しずかさ)、自由、美、宗教的真実から成立する。」
「このようにして、隠遁における閑寂は、世にも稀なよき生活として打ち立てられた。閑かして、適当なるさびしさや悲しみをもち、大空の雲のような自由があれば、一方には、宇宙のあわれを感ずるほどの繊細な美をもち、しかもその底には、つねに永遠への思念や絶対への祈りがあった。」



「しかし、閑寂に限界があった。...閑寂がいかによき生活であっても、しかし、畢竟遊びだであり、そのなかに安んじては、永遠や絶対に参する生命の真実は得られない。」   
そこで隠遁者は隠遁の中にいつつも、その外にでようとした。それが、信仰と美の追求となった。                                      
 隠遁者は、激しい孤独と中世的な無常観により深刻な苦悩を負うこととなる。そのとき、一人の天才が、そのような苦悩を超凡な美の把握がすべての苦悩を解決することを予見した。西行はそのような天才であった。そして、そのような美をもとめて、生涯を詩の漂白に送った。
心なき身にもあわれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ

「津の国のなにわの春は夢なれや蘆の枯葉に風わたるなり」

さび系の美は、孤独と無常にさいなまれる隠遁者が命がけで把握したものだが、この美には複合的に把握したものである。第1に隠遁者には周囲の自然が、「さびしき美」として受け止められていた。「さびし」は一つの深い美である。西行にはそのようなさびしき美の歌が無数にある。水の音、ひぐらしの音、一つ一つが魂をかきむしるほどのさびしき美であった。
第2に目に触れる自然が限りない無常の美として捉えられた。散る花、落ちる葉、一事一物に無常を感じる。
「このさびしき美と無常の美が一つになるとき、個物の上に、すなわち一木一草の上に、何とも言えない深い美が感じられる。道端の秋草、空行く雲、廃園の落葉、夕暮れの雨、それらに限りない無常寂寥の美が感じられ,詩美をもつ隠遁者は、それだけでもある点は孤独の苦痛を忘れ、多少なりとも魂の平安を取り戻すことができただろう。」
しかし、これだけは、さび系の美は生まれない。
しかし、隠遁者は、無常観を抱き、絶えず、万有・永遠・存在を思い、この世の真の姿や万有の真の姿を思い、生死の行方や歴史の行方を思った。もし、個物の中に無常やさびしさを感じる美の中に、永遠や万有の姿を感じることができるならば、信仰と美の一致が深い美の底において完成するからである。












バージニア・ウルフ

 バージニア・ウルフ(Virginia Woolf, 1882年1月25日 - 1941年3月28日)は、イギリスの小説家、随筆家、批評家であり、20世紀モダニズム文学の重要な作家の一人です。彼女は意識の流れの技法や詩的な散文を駆使し、文学に革新をもたらしました。また、フェミニズ...