加藤典洋長 村上春樹の短編を英語で読む 1970~2011 上 (ちくま学芸文庫)
もともとは、2011年に講談社からの単行本の文庫化。
村上春樹の短編を英語で読む 1979~2011 上 (ちくま学芸文庫)
序説の井戸の比喩の話を立ち読みして購入を決定した。村上春樹の初期には「デタッチメント」が重要なことだと村上春樹本人も言っている。その後、「デタッチメント」から「コミットメント」への移行に関心が移り、その方法として
『「井戸」を掘って掘って掘っていくと、そこでまったくつながるはずのない壁を越えてつながる、というコミットメントのありように、ぼくは非常に惹かれたのだと思うのです。』(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』)
と述べている。
この考え方は日本で珍しいものではないと、加藤典洋は感じている。そしてサルトルのアンガージュマンの考えや、マラルメの試作への沈静に通じる。
『これも、自分の井戸を「掘って掘って掘っ」たあげくに「飢えた子供」のいる広くあらあらしい世界につながる回路があるという、村上春樹の確信に通じる「孤立」や「沈潜」の把握に一例でしょう。この「アンガージュマン(社会参加)」とそれと一見背反する「文学への沈潜」の両方を手放さず、その双方が通底するという確信にたって行動するという考えの枠組みをサルトルが初めてはっきりと示したのは、1945年創刊の『レ・タン・モデンヌ(現代)』における「創刊の辞」でのことですから、ここには世界史的な戦後性の刻印があるでしょう。』(0.36)
このような
・自分の底をつきつめた後に、ある覚醒にいたる
・自分の底で広大な無意識の地下水の層に触れる
ともいうべき考え方の原型は、吉本隆明や丸山眞男にもあるという。
初期の短編から作家初期時代の方向性を模索中の村上春樹の作品を解説している点が
興味深い。特に初期に「言葉」と「物語」の両方の選択肢から村上春樹が「物語」に舵取りしていいくこと。そして「言葉」に舵取りしたのが高橋源一郎であるということも興味深い。
「物語」に舵取りしていく前の短編『中国行きのスローボート』『貧乏な叔母さんの話』『ニューヨーク炭鉱の悲劇』にみられる無謀な姿勢の分析も面白い。
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