(筑摩選書) 単行本 – 2014/5/13
山口 栄一 (著)
死ぬまでに学びたい5つの物理学 (筑摩選書) 5つの物理学とは
1.万有引力の法則
2.統計力学
3.エネルギー量子仮説
4.相対性理論
5.量子力学
これらは高校や大学レベルの内容もあるが、内容は正確な内容の説明ではなく、著者の目
的は、これらの理論が産み出された物理学者の創発のプロセスである。
創発(この本ではabduction)が、科学の知の営みであり、帰納や演繹ではないとういう事
を最初に論じたのはチャールズ・パースである。
1.驚くべき事実がAが発見された。
2.ある仮説Cが正しければ事実Aは当然の帰結である。
3.よって仮説Cが正しいと信じる理由がある。
CからAを導く推論を「創発」と定義した。
ビッグデータなどの解析は帰納であり、創発にはならず、それゆえコンピュータは人間に
及ばないとも言っている。
そしてイノベーションダイアグラムという図を紹介する。
2次元の座標で、縦軸に「知の具現化」、横軸に「知の創造」をとる。
このイノベーションダイアグラムでは
・経済的、社会的に価値づけられている知(図の青の領域より上の領域)
・価値づけられていない知(図の青の領域)「土壌」ともよぶ。
にわけている。
以下、本書p.188からの引用
「創発」はずべて土壌の下で行われている。知を創造するプロセスは「夜の科学」 であって、真の闇のなかで行われる。真の闇の中はろうそくを持たず、マニュアルも教科書も持たずに進んでいく。ただただ暗黙知を頼りに前に進むしかありません。しかも土壌の上に住む人々や社会や市場には、土壌の下、「夜の科学」は見えません。
一方、土壌の上には燦々と太陽が降り注ぎ、どこまでも見渡せる市場の世界。「演繹」によって芽が土壌の上に芽吹いたとき、価値が産まれます。つまり、それは新製品、新サービスになって何らかの役にたつ価値をもたらします。そこで「知の具現化」はとりもなおさず「価値の創造」です。
このイノベーションダイアグラムでは重要な仮説を含んでいます。それは「知の創造」行為としての「創発」は、かならず「帰納」が最初にないとおこらない、ということです。「帰納」のプロセスはいったん物事の本質に下りなければ「創発」はおきず、パラダイムを破壊するような新しい知は創造されない。「創発」はかくて土壌の下でしか起きない。
この考えで、本書は5つの物理理論の創発過程を説明しています。最後にはiPSの山中教授の創発プロセスが紹介されています。
個人的には、山中教授が24個から絞り込んだ遺伝子から4つに遺伝子を選び抜く作業で助教の人の一個ずつ減らしていくアドバイスからこの作業から発見したとあるのですが、機械学習に興味あるものにとって、この特徴選択を深層学習で解析してみたいとも考えています。遺伝子のどの特徴が重要で4つに絞られていくのかに着目したい。4つだけではないかも...と夢想します。